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かれこれ17年ほどまえ、新建築住宅特集jt 9912 に、建築環境学・武蔵工業大学教授 宿谷正則氏の「地球環境と住宅」という論文が載りました。非常に興味深く読ませて頂きました。共感する部分、啓発される部分が多々あったので、私自身がどうとらえ、どう考えるかまとめてみようと思いました。
宿谷氏が言われる通り、1日のかなりの時間を、また一生の半分以上を、現代の日本人は建築環境の中で過ごしております。人工的に造られた建築環境の中で生活をする事を、建築環境が与える人間への影響を、これまで以上に私達は考えていかなければならないと思います。
ここで、宿谷氏は「建築環境」と「地球環境」を対応させて議論することが大切だと提起されています。なぜならば、45億年間の地球環境の変遷と、生命の歴史とは非常に密接な関係をもっており、今後も生命が地球環境に規定される部分が多く、現代人でいうと建築環境の影響が大きいからではないでしょうか。
受精卵が胎内で、生命の歴史を再現する事は、よく知られております。生命の歴史は、地球環境に適応しながら進化してきました。ここでは、競争原理による進化と、共存原理による進化の別には触れませんが、どちらにしても、地球環境が、生命の進化に、かなりの影響を与えてきた事には間違いがないようです。
人間は、約60兆個の細胞でできており、この細胞は一部の例外を除いて全て同じ遺伝子情報を持っております。DNAの解読が日々進んでおりますが、この情報たるや驚くべき情報量だそうです。生命の進化の歴史、さらに未来の可能性、恋をすると美しくなる事、火事場のばか力の出し方、ありとあらゆる、人間ができうる可能性の限りが記述されているそうです。ここで同じ情報を持っていながら、目になる細胞があり、口になる細胞があるのは、情報は持っているけれど、発せられる情報がそれぞれ違うからです。
遺伝子情報がなければ一秒たりとも生きれないと聞きます。膨大な遺伝子情報からon/offにより情報が発せられるそうです。そのon/offは何によってなされているかというと、環境や、精神状態などにより左右されるのだそうです。ガンの情報をもっていても、発せられる人も居れば、発せられない人も居るわけです。そして発せられた情報に基づき正確にはたらき出すのです。心臓の情報を与えられた細胞は、数はわかりませんが、何万個の細胞が寸分違わずタイミングを合わせて動くのです。
ここで、整理しますと、細胞それぞれが置かれた状況に合わせて、情報が発せられるという事です。また、ヒトがおかれた環境や、状態によっても発せられる情報が変わってくるのです。沖縄に住んでいた人が、北海道に住めば、環境を知覚情報が伝え、無数のストックがある情報から、それに適応するための情報が発せられるのです。一日のかなりの時間を過ごす建築環境が、ヒトに与える影響により、発せられる情報が変わると言うのも納得できますでしょうか。
そう考えると、建築環境の重大さが、あらためて浮き彫りになります。人間は、地球環境に合わせて、人工的に建築環境を造って参りましたが、快適を求めるあまり、地球環境と異なる空間を造り上げようとしております。住宅でも、高気密高断熱の機械換気システム、全館空調を取り入れ、人工的にまったく違う環境を作り上げようとしております。これでは、遺伝子に刻まれている生命本来の環境から、かけ離れてしまうのではないでしょうか。それが、遺伝子に、ヒトに良い影響を及ぼすとは思えないのであります。
建築環境を、地球環境に対応させるためには、自然のエクセルギーを取り入れ、エントロピーを無理無く開放する事が求められております。これらは、機械になるべく頼らずに、建築的な手法や、住まい方の工夫によって可能になるのではないでしょうか。また、そうすべきだと考えます。そうする事によって、私たちは、生命本来の健康的な生活を営む事ができるのではないでしょうか。
最後に宿谷氏の論文から引用させて頂きたいと思います。
『私たちの身体に刻み込まれている生命記憶を大切にし、また、自然の枠組みに見られる「流れ」と「循環」に倣って、住宅をはじめとするさまざまな建築環境をデザインしていくこと----それが、地球環境の「しくみ・しかけ」と共に「すがた・かたち」に調和するような、これからの住宅のつくり方・住まい方なのだ。』
参考文献 宿谷正則 新世紀住宅論1「地球環境と住宅」 『新建築 住宅特集 jt 9912』 20〜25貢
村上和雄 「生命の暗号」 サンマーク出版