住まいの建築方程式1
住まいをつくる上での公式はございません。では、住まいという未知数のものをどのように解いていくのか、一緒にかんがえることで、皆さんの住まいつくりの、少しでもお役に立てればと、このページをつくりました。
方程式とは未知数のものを含む等式のことであり、建築は計画時点では未知数の解であります。それを解くのを方程式になぞらえて私が勝手に比喩したものであります。
要望や必須条件を逐次適用させていくとしましょう。この進め方はいかにも足し算のようでもあります。また、複数の要望や必須条件を掛け合わせて適用させる進め方は掛け算のようでもあります。
足し算の住まいつくりは、数値であったり、モノへの依存を深める傾向があるといえます。なぜなら単体で足すことのできるものは、数値やモノ、グレードや付加価値が多いからです。
では掛け算の住まいつくりは、ナニかとコトとの関連を深める傾向があるといえます。なぜなら掛け合わせて適用するためには、相互の関係や関連付けが必要になるからです。
標準仕様が決まっていたり、基本プランが、決まっているものは、足し算で進み、引き算で調整するという、単純作業に終始しがちといってもよいでしょう。
何もないところから、コンセプトを練り上げ、人と人、人と環境とのあいだをつなぐ ものつくり は、掛け算で関連付け、割り算で整理整合する、複雑な作業を要するといってもよいでしょう。
ここでは、基本的な進め方をざっくりと示しましたが、これから具体的に示しながら提案していきたいと思います。
住まいの建築方程式2
前回、足し算の住まいつくりは、数値であったり、モノへの依存を深める傾向がある。なぜなら単体で足すことのできるものは、数値やモノ、グレードや付加価値が多いから、と述べさせて頂きました。
数値やモノ、グレード、付加価値というと、その殆どはメーカーや、関連団体がバックアップする機関、雑誌等メディアの指標に基づきつくられたものであります。とりわけ、メディアやメーカーは、購買意欲をかきたてる扇動にぬかりがありません。従って、この数値やモノを単体で検討し進めていくと、物欲や欲求が肥大化していく傾向にむかいやすい、といえるでしょう。
話は変わりますが、「千と千尋の神隠し」に登場するカオナシは、自らの意思や明確な目的を持たないため、他人の欲望や欲求を飲み込んで肥大化していきました。住まいつくりでも、自らの意思や目的がないと同様のことが起こりかねません。
足し算から始めて進めていくことがこのように危険であることがわかると同時に、最初に必要なものは、住まいをつくるための目的であり、自らの意思を明確にすることだということがわかります。といっても、「そんなものが最初からあったら、苦労しないわ!」という声が聞こえてきそうですので、次回はどのように住まいをつくる目的や意思を構築し、固めていくのか、そのあたりのお話しをさせて頂きます。
住まいの建築方程式3
前回、住まいつくりを、足し算だけですすめていくと、危険であるというお話しをさせて頂きました。今回は住まいをつくる目的についてです。
住まいをつくる目的をうかがうと、子どもが大きくなったから!住まいが狭くなったから!などの声をお聞かせ頂きます。これは動機やきっかけですね。では目的はというとなかなか出てきません。
ある建主さんが以前このような事をおっしゃられました。
「自分が一生を終える時に、この家に育って良かった!と子どもに言ってもらえるような家にしたい!」
ここでいわれている家とは、家族をも含む総合体と言っても良いでしょう。例えば私たちが「家に帰る」という時には、無意識にハード(器)だけではない、家族やペットや植物、大切ななにか!までを含めているに違いありません。
このように、いっしょくたに住まいも家族も含めて「家」といっているほど、住まいと家族の関係は近いものなのですよね。それなのにあんまり真剣につくる時に考えてなかったり、していませんか?発達心理学で知られるジャン・ピアジェは、著書「発生的認識論」の中で、「子どもの能力は、あらかじめ決められた才能が、決められた時期に発現するのではなく、子どもをめぐる、人や環境との相互作用の中で発現する」というようなことが述べられています。
そのように考えると、子どもの発達に環境が作用していることがわかります。その主たる環境をつくる住まいは、子どもの発達に大きく関わっていると、いえるのでしょうね。
次回は、住まいをつくる目的を掘り下げるために、住まいの役割について、考えてみましょう。
住まいの建築方程式4
前回は、住まいをつくるための目的にすこしふれましたが、今回はその目的を掘り下げるために住まいの役割について、考えてみましょう。
住まいは古くは、厳しい外部環境から生命を守るためにありました。それは風や雨や、凍える冷気、外敵から身を守るためのものでした。最初は洞窟などの自然造形を利用したものであり、住まいというよりは営巣といったほうがよいのかもしれません。
日本最古の住居は、1986年に発見された旧石器時代の「はさみ山遺跡」にみられる住居とされています。多くの生物が死滅したヴュルム氷期(最後の氷河期)を、人間が生きのびることを可能にしたのは、「はさみ山遺跡」にみられるような住居をつくり、寒さをしのいだからだと思われます。そう考えると、個体としてのヒトを住居は守るだけではなく、人類という種を守ったともいえますね。このようにシェルターとしての役割が最初であり基本であることがわかります。
さて、次回はもう少し住まいの役割について、進めてみましょう。