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「宮脇檀の住宅設計ノウハウ」 宮脇檀建築研究室著            丸善株式会社

 

この本は住宅設計の第一人者として活躍された宮脇檀さんが、惜しげも無くその設計手法を
記された本であります。若くしてお亡くなりなられた宮脇檀さんの作品や言葉は、住まい造りの
上で、私達に多くの影響を与えております。
宮脇檀の住宅設計ノウハウは、これからも住まい造りの上で、ずっと生き続ける事でしょう。

これから、この「設計ノウハウ」の項目をご紹介していきます。
ざっと項目だけでも100項目以上ありますので、私自身整理しながら、一項目毎にご紹介
していきます。

これは、住まい造りを、一面的に捉える事のないようにする、自分への戒めとともに、
住まい造りの情報を集めてみえる皆さんが、パーツ(部分)や機能から入り込んで、間違った住まい造りを
進めてしまわないように、記しているものです。 ご参考頂き、是非とも購入して、読んで
頂きたい本です。

 

第一章 土地の秩序に従う事は絶対条件

1.1 「土地の秩序が建物を決める」

土地が持っている秩序の感覚の存在。美しい集落はその秩序の上にピタリと載っている。
その他条件と一緒に、またそれ以上に優先させて、その秩序に従う事が必要。
それとともに、時間や社会的要因も同時に考える必要がある。
 

1.2 「周辺の建物に合わせる」

住宅は単独で立つ事はほとんどない。周辺の住宅や建物は環境要素の一つ。
先住者への迷惑を少なくする。その中で新しい住み手の快適な住環境を獲得する。

 

1.3 「他人の借景となる家を創る」

借景の欠陥は、自分の家の中からよそを見る事が主眼で、他人から見られる意識が少ない。
家のない風景を美しいとする国ではあるが、建物を外して考える事はできない。
ならば風景を造っている自覚をもって設計し、造るべし。

 

1.4 「土地いじりは最小限に」

土地いじりは自然や地球に対する冒涜である。しかし、平坦地ばかりがあるわけではない。
新たに家を造る場合は敷地を最小限しかいじらない方法を考える。
また必要上壊した土地をもう一度現状に戻すことも最小の礼儀。

 

1.5 「土地に溶け込むか、断固主張するか」

建物を建てないほうが美しい風景がある。どのように土地に溶け込む建築を造るか。
そうでない風景もある。建築が建築として主張する事があっても良いのでは。
美しい建築を加える事で風景をより良くする事も必要と考える。

 

1.6 「パノラマ写真を撮る」

家の設計は土地の要求を読み取る事。土地を歩き、遠くから眺め、また戻り、ゆっくり眺める。
雨の日、晴れの日、夏の日、冬の日、いろいろな状態の中で歩き、土地の要求する建築の形を理解する。
設計が、その土地の上で行えるわけではないので、最低限パノラマ写真と、記録スケッチを撮る。

 

第二章 プランニングは 生活の鏡、生活の母胎

2.1 「一軒一軒の家は、それぞれの家族の自叙伝だ」

一軒一軒の家は、その家族の育んできた生活の歴史を全方位的に反映しなくてはならない。
家の造られ方はその家族全部の長い自叙伝であると考える。
また、造られた家が、これからの家族の歴史に参加してくれる事を願う。

 

2.2「家の中の回遊性が楽しさを生む」

一方通行的な単純な動線だけで構成される家は退屈で、楽しさがない。
平面の中、断面の中で、ぐるりと回れる回遊性が取れるようにしたい。
小住宅では難しい部分もあるので、空間だけでも繋がる回遊性を求める。

 

2.3「部屋同士のプロポーションを崩すな」

良い家の条件の一つに、部屋同士のプロポーションが見事にとれているいる事があげられる。
異常にどこかが大きかったり、小さかったりするのは、何かが狂った家である。
部屋どうしのプロポーションが適当にとられた上では、各部屋自身のプロポーションが追及される。

 

2.4「南北通風は必ず取れる-プランでとる

日本のような亜熱帯の国の夏はかなり暑い。暑さを機械で処理するようになったけれど本当に良いのだろうか。
夏の恒常風を取り込み、風のよく通る家を造る事は可能である。子供の頃、襖を開け放して風の通る部屋での昼寝の気持ち良さを再現したい。だから第一に南北通風のとれるようなプランを考える事からはじめる。
兼好法師の「家は夏をむねとすべし」は現在でも生きている。

 

2.5「南北通風は必ず取れる-セクションでとる

プランで工夫して南北通風を取る事だけが方法ではない。また取りにくいプランを作らざるを得ない場合もある。
そのような場合、何か他の方法で通風を取る事を考える必要がある。
京の町家は坪庭を風井戸とし、屋根の上の恒常風に吸い取る役割を持たせている。
屋根裏や、トップライトで抜いたり、床下を通したり、物入れ等を風の抜け穴にする方法もある。
セクションでの風の抜き方を考えれば良い。

 

2.6「ワンルームに近い家ほど家族的」

家が何のためにあるのか考えてみれば、疑いも無く、家族が家族らしくデレデレし合う場所としての、
最終的な意味を持つ。それ以外の大部分の行為は家以外の場所で可能である。
家族を肌で感じ合いながら一緒に住む家が、最も親しみやすい家族的な家ということができる。
だから、便所や浴室、夫婦の寝室のようなプライバシーの最小限の部分だけ密閉させ、他は可能な限り
オープン、またはセミオープンに扱えるように設計する。

 

2.7「家の中から自分の家が見えるのは楽しい」

日本の住宅地では、家の中から他人の家を見るか、または他人の家が見えないように塀や樹木で隠すのだが、それだけでは受身すぎる。積極的に敷地の狭さをカバーするのに、プランニングを工夫し、
家の中から我が愛する家を見るようにする方法がある。吹抜けなどを使って立体的に見る方法もある。
自分の家の他の部屋の明かりがついたり消えたり、家族の像を見るのは、家族を愛するものにとって、
楽しいことでないはずはない。

 

2.8「二階リビングは地面とどう繋げるかがテーマ」

住宅の敷地が矮小化し、日のあたる家をつくるために、二階に昼間のリビングを持ってくる事がある。
これは、一階に壁の多い、プライバシーの高い部屋を造り、二階で高い天井のオープンなリビングを造れるメリットがあり、有効な手段である。しかし、地上部分とワンフロア離れているのが、最大の問題点である。
二階の公室部分と地上部分との接点である玄関をどう位置させるか、大きなテーマになる。

 

2.9「端から端を見通せる部分を造る」

狭くなった家を、とにかく部屋が欲しいという要求に従っていくと、小間切れにされた家ができてします。
これでは、空間として、また生活としての豊さが欠けるように思えてならない。
そこで、必ず家のどこかに、その家の最も長く、大きく見える部分を見通せるようにつくるようにする。

 

2.10「室内着の着替えは何処で」

近代住宅理論では、帰宅した家族が寝室で着替えてリビングに来る事を想定し、寝室にだけ洋服タンスを造るのだが、実態はそうでないパターンの方が多い。多くの人は帰るなり、その場で洋服を脱ぎ捨て室内着に着替えたがるようだ。住宅設計に必要な心遣いの中には、人間の生活を正確に読みとってそれにソッと家を合わせてあげることである。

 

2.11「外と内の中間の空間が欲しい」 -外部を内に見立てる

住居とその周辺での生活は、全く室内的な生活と、全く屋外的な生活の二つに分かれてしまうわけではない。
実利的なスペースとして、また、心の問題としても、内であり、外であるような空間が欲しい。
屋外であるけれども、室内のような空間、室内と同じように生活する空間というのが考えられる。

 

2.12「外と内の中間の空間が欲しい」 -内部を外に見立てる

外のような内部を造る方法もある。室内という甘さの中に異質なものが混ざり合って緊張感が生まれる。
町家の土間などは、このような空間で、そのお蔭で密集した都市生活の中で、人間らしい生活を維持できた。
外部的内部、内部的外部という空間は、かつて日本の住宅の庇の下がそうであった。
空調設備で、内部と外部をはっきり分ける空間造りが普通になった現在では少なくなったが、
生活を豊にする上で必要な場所である。

 

2.13「帰ってくる人への語りかけを配慮する」

家は人間が帰ってくる巣である。家の明かり、家の姿を遠くから見掛けてホッとしたい、それは当然の欲求。
だから帰り道の最初に見える道の角からの形、家人を迎えるための窓の作り方などに注意を払って設計する。
夜中に門のあたりの気配がわかるのは防犯上も有効であるが、帰って来る人達への心遣いを大切にしたい。
家人の帰りを見つめる窓、行ってらっしゃいと手を振る窓、そんな風情をもたせたい。
父親達は仕事が終ると急いで家に帰って来るような習慣を持つようになるだろう。

 

第三章 断面は空間の喜びを生む

3.1「矩計の悪い家は悪い家」

矩計(かなばかり)は、家全体のプロポーションを決定し、家全体の構築を示し、家全体の空間の連続性を示し、家全体の仕上を示す図面である。矩計は、家のあらゆる構成を決定するきわめて重要な図面である。

 

3.2「天井懐は薄いほどよい」

天井懐や屋根裏などの部分が少ないほど、小さなボリュームのわりには内部をフルに、有効に使った家である。
小さなボリュームの中で豊な空間を作り出そうとしたら、隅から隅まで使わなければならない訳で、京都の町家などは、この辺実にしつこく、うまく使っている。たっぱの高すぎない家、軒の高すぎない家が、人間にしっくりくるので、低い家を造ろうとすると、天井懐の少ない家ができる。しかし、日本の夏の居住性を忘れて無用心に造ると、悲劇に繋がる。

 

3.3「天井高の高いのは成金趣味」

天井が低い部分は落ち着くための空間であり、それと対比的に、高揚感を生む、空間が鳴り響くような高い天井とが一緒にある事が、住宅や建築を豊にすると考えている。ただどの部屋も一様に天井が高いという家は、金さえ出して大きな家さえつくればいいと思っている、趣味の低い成金の家だとも思う。

 

3.4「軒は低く低く・・・」

建物の表情を優しくし、親しみ易くするにはヒューマンスケールである事しかないのだが、その場合軒は出来るだけ薄く、低くする。人を招き込む住宅のような建物にはそんな表情が必要。厚く高い軒は田舎っぽく下品で、成金とか権力の臭いがする。

 

3.5「床を低く地面になじませる」

建築基準法で床高は450oと言う事になっている。在来の束立ての工法では、なおかつ川砂を敷いて乾燥させないと不具合が生じる。そのレベル差の結果縁などの中間領域が必要になる。小住宅の場合、庭はリビングと一体化されたものであるべきである。連続性を妨げない様なレベルを造る事は庭を生かす手法として重要である。

 

3.6「吹抜けは空間を結びつけるために」

空間の平面的な展開を破る吹抜はその劇的な効果のために多用され、それにより、空間が豊かになるデザイン上の特性を持っていることは否定できない。しかし暖気を逃がしたり、コールドドラフトが降りてきたり、音の伝播管にもなる。何のためかという意識をもって作らないと、単なる遊び場で終わり、寒さなどの弊害さえありうる。
そのためにも目的を明確にすること。 

 

3.7「トップライトは夏の直射を考えて」

現在の住宅地の現状の中で、トップライトが手法として、有効視されてくるのは当然のことであった。壁面の窓の3倍の光量、日影の心配がない、光の劇的な効果。一つ考えなくてはならないのが、夏の日照である。
夏の昼に近い日照は、殆ど真上から来る。その直下は、生活空間としては成り立たないほどの暑さになる。
失敗の体験から、基本的には、2階以上の高さを、その下に持たない限りつくらないほうが良い。

 

3.8「階段は日常性を破る場所」

人間は通常水平移動を主としている。長い人間の歴史のなかで、垂直に移動する事はまだ多少ハレ的な雰囲気を持つ行為である。設計する時に、そのような事を意識して設計したほうが、昇り降りする人を楽しくさせるようだ。
こんなに面白い階段、そんなに簡単に設計して、良いものですか。住み手の皆さんにこの感覚、充分に味わってもらわなくては。

 

第四章 開口部は人間と自然の意識的な接点 

4.1「いらっしゃいませと開く玄関」

安いこと、安全であることだけが主体である一般の住宅の玄関扉は外開きになっているのだが、本当にそれで良いのか。客を外に押し出すように外に開く扉は、客を迎えることになるのだろうか。
内開きの欠陥は、たたきが狭いと靴が総なめになる事や、雨仕舞、風止めが難しい事がある。
いらっしゃいませと客を招き入れたかったならば、そんな欠点は技術的にどうでも解決できる。

4.2「邪魔者は消せ」-全引込建具

建具を全部壁の中に引き込んでしまうと気持ちがいい。これは建具が何故あるのかという問いとオーバーラップする。建具は外部の荒い気候から内部を守り、邪魔者を防ぐ。だが、必ずしも一年四六時中必要なわけではない。気持ちのいい日、時間に建具をなくして外部と内部をつなげ、自然と一体化した空間に身を置きたくならないだろうか。そんな時に建具を開けてしまって消えてしまうというふうな住まいがつくれたら、それは気持ちのいいことに違いない。

4.3「邪魔者は消せ」-フレームレス建具

建具に枠がある事を、常識として出発してしまうものである。造作大工が枠を造り、それに合わせて建具を造るというように、精度の違いを直接ぶつけないために生み出された手法である。両方の精度を高めるか、精度の違いを逃がす手法があれば、枠の無い建具もありうる。
内と外が繋がっているような表現をしたい時に、枠で切れるのはイヤな事なので、枠なしで縁を切らないようにする事がある。

4.4「邪魔者は消せ」―隅柱を外す

四隅に柱があるのが構造的に安定するのは当たり前だが、デザイン上きわめて重要な部分でもある。特に内部と外部の空間を繋げたい場合には、隅の柱を抜く事が絶対条件になる事がある。もちろん構造的に無理をするわけだからあらゆる場合に使えるわけではない。さまざまな工作をして、構造の補強をする工夫が必要である。その工法の後が気にならずに外と内が繋がれば成功である。

次回は

邪魔者は消せ―幅広の敷居を消す

                        です、乞うご期待。

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